2022年4月24日 基督聖協団目黒教会 牧師 横山聖司
「助けてください」使徒16:7~12
〝マラソン選手がアキレス腱を痛め、モルヒネを打ってオリンピックに出場した〟。これらのカタカナ語はすべて古代ギリシャと関係がある。〝マラソン〟は、ギリシャ軍の兵士がマラトンの原野を42㎞走って戦勝報告した故事から近代マラソンが始まった。〝アキレス腱〟は、アキレウスの唯一の弱点が踵であったギリシャ神話に基づいている。〝モルヒネ〟は、夢の神モルペウスに由来し、夢のように痛みをやわらげる神話に由来する。〝オリンピック〟は、古代ギリシャで4年に一度、守護神ゼウスに捧げられた祭典競技に由来する。古代ギリシャは、歴史の揺籃期に燦然たる文化の花を咲かせ、その影響は古代ローマを直撃し、さらに地図の拡大につれ、その後のヨーロッパに、アメリカに、そして世界中に様々な形で浸透した。痕跡は至る所で認められる。ひるがえって日本人も欧米の枠組みの中にはめ込まれ、衣食住は言うに及ばず、思考、知的認識、合理主義、科学至上主義…、いっさいがギリシャ的、欧米的で、その文化に首まで浸っている。ギリシャのアテネでのことだ。「死者の復活のことを聞くと、ある者たちはあざ笑い…こうして、パウロは彼らの中から出て行った」(使徒17:32~33)。ギリシャ的知性は、ヘブライ的信仰をまるで受けつけなかった。紀元49年、パウロが伝道の旅に出る。黒海や地中海沿岸の大都市を目指したが、「イエスの御霊がそれをお許しにならなかった。…それでトロアスに向かった」(16:7~8)。トロアスは、ホメロスの叙事詩「イリアス」や「オデッセイア」で名高い町である。ギリシャ語を話すパウロがホメロスを知らないはずがない。だがパウロにとって、ギリシャの叙事詩など何の関心も呼び起こさなかったに違いない。ひたすらイエスの霊に導かれ、福音を語ることだけに心を傾けた。トロアスに導いたイエスの霊は、パウロに幻を示す。「ある夜、パウロは幻を見た。ひとりのマケドニヤ人が彼の前に立って、『マケドニヤに渡って来て、私たちを助けてください』と懇願するのであった。パウロがこの幻を見たとき、私たちはただちにマケドニヤへ出かけることにした。神が私たちを招いて、彼らに福音を宣べさせるのだ、と確信したからである」(16:9~10)。「マケドニヤ人」とはギリシャ地方の人々を指し、イエスの霊は、ギリシャ本土での宣教の必要性を訴えた。「人間は万物の尺度なり」(プロタゴラス)。「万物は流転する」(ヘラクレイトス)。流転して流れ去り、永遠とは無縁の存在を万物の基準、中心に据えた文明社会。いま、ギリシャ的知性が、ヘブライ的信仰に、助けを求めて叫んでいる。その叫びを聞く教会は幸いである。

カテゴリー: 礼拝メッセージ

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